2004年に国書刊行会より発行が開始された、ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの作品集成『スタニスワフ・レム・コレクション』の『短篇ベスト10』が今月の5月25日に遂に出版されるようです。
<スタニスワフ・レム・コレクション『短篇ベスト10』 – 国書刊行会>
http://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336045058/
2004年の『ソラリス』原典完訳版から始まって、エッセイ集『高い城・文学エッセイ』、小説『天の声・枯草熱』、最後の長篇『フィアスコ(大失敗)』までは順調に来ていたのですが、残りの2冊の『短篇ベスト10』と『変身病棟・挑発』は作業が難航したのか、はたまた翻訳者の都合なのか、今まで出版が停滞していました。その間、シリーズ開始時には存命だったレム氏も亡くなってしまいました。
さて、この『短篇ベスト10』、レム氏の故郷のポーランドのファンの人気投票で選ばれた15本の短篇の中から、本邦未訳の10本を選んで訳した作品集とのことです。それだけ多くの作品がまだ未訳であったことは驚きですが、まあこの辺りは需要と供給の関係でそうなっているのである意味仕方がないことでもあるのでしょう。むしろ、隠れた名作を楽しめる機会が残されていることは実はそれだけで喜ばしいことなのかもしれません。しかし、このレム・コレクションは表紙が非常に良いですね。表紙が良いと読書する時の気分も違います。
ところで、最近知ったのですが、当時レム・コレクションの第一冊目として刊行された沼野充義氏翻訳による『ソラリス』原典完訳版の文庫版が先月、早川書店から出ていました。
レム・コレクションがまだ続いているのにこれはありなのかと思いましたが、まあ読書の機会が広がるのはとても良いことだと思います。
それからソラリスといえば、アンドレイ・タルコフスキーの映画版の方も有名ですが、この映画の撮影当時、レム氏はタルコフスキー氏と作品のあり方で議論になったそうです。
あれはまあ、映画が暗に示している方向というか、要するにタルコフスキーの解釈の問題でしたね。あの映画で彼は、宇宙や宇宙飛行に対して嫌気を起こさせ、それが好ましくない悪夢のような物事ばかりに満ちている領域だということを表現しようとしたんです。ところが、私は全然そうではないと思っていた。人類が宇宙に飛び出すことに対して、嫌気を起こさせるべきではまったくない。で、その点をめぐって議論になったわけです。これが第一です。第二に、タルコフスキーは私の原作にないものを持ち込んだのです。つまり主人公の家族をまるごと、母親ならなにやら全部登場させた。それから、まるでロシアの殉教者伝を思わせるような伝統的なシンボルなどが、彼の映画では大きな役割を果していたんですが、それが私には気に入らなかった。でも映画化する権利はもう譲った後だったから、いまさら何を言ってもタルコフスキーの姿勢を変えられる可能性はなかったんです。それで喧嘩別れになり、最後に私は彼に「あんたは馬鹿だよ」とロシア語で言って、モスクワを発った。三週間の議論の後にね。その後彼が作ったのは、結局、なんだか、その、あんな映画だったわけです。(インタビューの全文は『新潮』一九九六年二月号に掲載)
-国書刊行会『ソラリス』(スタニスワフ・レム 沼野充義訳 2004)P360より引用
レム氏の作家としての矜持を感じさせてくれる話です。まだソラリスを未鑑賞の方は、やはり小説を先に読むのが良いと思います。
そういえばレム氏の作品の電子書籍版はまだないですね。いつかは発行されるんでしょうか。この頃は絶版作品がますます入手し難くなっていけません。もう21世紀なのに。